台湾で暮らしはじめて、いちばん最初に気になることのひとつが「病院代、どうなるんだろう」ではないでしょうか。
この記事では、台湾の公的医療保険である健保(全民健康保険)の基本的な仕組みと、外国人が加入するための条件・手続きの流れを、わが家の実体験を交えて整理しました。「まだ入れない期間」がある方にも役立つ内容です。
台湾の「健保」ってどんな制度?
健保(全民健康保険)は、台湾に住む人のほぼ全員が加入する公的な医療保険制度です。日本の健康保険とよく似た考え方で、加入者は毎月保険料を納め、そのかわり病院や歯科、薬局を利用するときの自己負担が大きく抑えられます。
台湾在住の外国人も、一定の条件を満たせば加入対象になります。そして加入すると発行されるのが、健保カード(健保卡)。診察の受付でこの1枚を出すだけで手続きが進むので、生活の安心感がまったく変わります。
夫は台湾に来て2年間、健保に入れませんでした
わが家の場合、夫は最初ワーキングホリデービザで台湾に来ました。ちょうど新型コロナの時期と重なってビザが1年延長されたため、結果として約2年間、台湾で暮らしながら健保のない状態が続いたことになります。(当時はまだ結婚もしていませんでした。)
そして間の悪いことに、この時期の夫は見事に水土不服。おなかを壊すことが本当に多く、クリニックにも数えきれないほどお世話になりました。
会議中、ポケットの中でスマホが鳴り止まなくなった日
いちばん忘れられないのは、ある日の朝のことです。
出社して会議に入ったところで、ポケットの中でスマホが震え出しました。一度では終わらず、何度も、何度も。ただごとではないと思って席を外し、画面を見ると、夫の携帯からの不在着信がいくつも並んでいます。
かけ直すと、出たのは夫ではなく病院の方でした。激しい腹痛と嘔吐・下痢で、夫は家の床に倒れていたとのこと。それでも自分で救急車を呼び、そのまま救急に運ばれたのだと聞かされました。
診断は食中毒。薬を飲んで、幸いその後はすっかり回復しました。ただ、会計のときは正直ひやりとしました。健保がないので、当然すべて自己負担です。結果としては数千台湾ドル程度で、身構えていたほどの金額ではありませんでしたが、「もし大きな病気だったら」という想像だけは、そのあとずっと消えませんでした。
(※金額はあくまで数年前のわが家のケースです。症状・検査内容・医療機関によって大きく変わります。)
台湾の医療費は、他の国と比べれば決して高額ではありません。それでも、健保を持っている私自身の感覚と並べると、差ははっきりと感じます。
だからこそ、夫がようやく健保に加入できたときは、ふたりで思わず声が出ました。

やっと……!やっとこれで、安心して病院に行けるね。
台湾で健保を持つということは、単に安くなるという以上に、「ここで暮らしていていい」という感覚に近いのだと思います。
外国人が健保に加入する条件
ここがいちばん誤解されやすいところなので、順番に整理します。
大前提:まず「居留証(ARC)」が必要

健保に加入するには、台湾の居留資格=居留証(ARC)を持っていることが出発点になります。
裏を返すと、ワーキングホリデービザや観光ビザなど、居留証が発行されない在留資格では健保に加入できません。 夫が2年間無保険だったのは、まさにこの理由でした。「そのうち入れるだろう」と思っていると、その“そのうち”が来ないことがあります。
加入できるタイミングは「立場」によって変わります
居留証を取得したあと、いつから加入できるかは立場によって異なります。 台湾の健保では、加入する人を「被保険者」と「扶養家族(眷屬)」に分け、それぞれ手続きの窓口と加入開始日が決められています。
| 区分 | 対象となる方 | 手続きの窓口 (投保単位) | 加入開始日 |
|---|---|---|---|
| 被保険者 | 雇用されている方(受僱者) | 勤務先 | 雇用された日から |
| 被保険者 | 会社の代表者・責任者(負責人) | 勤務先 | 台湾に6か月居留してから |
| 被保険者 | 職業組合の組合員(職業工會會員) | 所属する職業組合 | 台湾に6か月居留してから |
| 被保険者 | 就労しておらず、扶養家族としても加入できない方(地区人口) | 居住地の郷・鎮・市・区公所 | 台湾に6か月居留してから |
| 扶養家族(眷屬) | 被保険者の、就労していない配偶者・両親・20歳未満の子ども・20歳以上で就労能力がない、または在学中の子ども | 被保険者の勤務先(被保険者に紐づけて加入) | 台湾に6か月居留してから ※例外は下記/台湾で生まれた外国籍の新生児は出生日から |
「台湾に6か月居留」はどう数えるの?
この「6か月」は、居留証を持って台湾に入国した日からの実際の居住期間で数えます。
- 原則:連続して6か月台湾に住むこと
- 出国が1回だけ、かつ30日以内の場合:出国していた日数を差し引いて、合計6か月に達していればOK
つまり、待機期間中に出国できるのは「1回・30日以内」まで。それを超えて出国した場合(2回以上出国した、または1回でも30日を超えた)は、最後に入国した日から6か月を数えなおすことになります。
ここは見落とすと半年が振り出しに戻ってしまう部分です。加入待ちの期間に一時帰国を考えている方は、回数と日数の両方に気をつけてください。
【重要】ご家族が待たずに入れるケースがあります
ここまで「扶養家族は6か月待ち」と書いてきましたが、大きな例外があります。
居留証(ARC)の居留事由が「外国専門人材(外國專業人才)」になっている場合、または就業ゴールドカード(就業金卡)をお持ちの場合、そのご家族は居留証を受け取った日から健保に加入できます。 6か月を待つ必要はありません。


日系企業から専門職として赴任される方は、多くがこちらに当てはまります。確認する方法はかんたんで、居留証の「居留事由」の欄を見るだけです。判断がつかなければ、勤務先の担当部署に聞けばすぐわかります。
逆に、それ以外の居留事由の場合は原則どおり6か月待ちになるので、その半年をカバーする民間の保険を用意しておく必要があります。 ここは「たぶん大丈夫だろう」で進めると、いちばん高くつくところです。
ちなみにわが家の夫は、自分で会社を立ち上げた「負責人」ではあったものの専門人材の認定は受けていなかったため、この例外には当てはまらず、原則どおり6か月待ちました。
📖 公式情報:衛生福利部中央健康保険署「非本國籍人士」(中国語)
わが家の実際の流れ(夫の場合)
就労関係の書類も含め、手続きはすべて私が担当しました。実際にたどった順番はこうです。
- 工作許可(就労許可)を取得する
- ワーキングホリデービザを就労ビザに切り替える
- 居留証(ARC)を申請する
- 居留証取得から6か月後、健保に加入する
ポイントは2番です。ワーキングホリデービザから就労ビザへの切り替えは台湾国内ではできず、一度日本に帰国して手続きをする必要がありました。 「働く許可はもう出ているのに、そのために一度出国する」という、はじめての人には想像しづらい流れです。
そして3番も見落としやすいところ。ワーキングホリデービザのままでは居留証は申請できません。つまり健保にたどり着くまでには、「ビザ → 居留証 → 健保」という3段階の階段があるということです。
さらに言うと、4番までにもう半年ありました。 夫は自分で会社を立ち上げた「負責人」という区分にあたるため、上の表のとおり、居留証を取得してから台湾に6か月居留して、ようやく加入できたのです。ワーキングホリデーの2年と合わせると、台湾で暮らしはじめてから健保を持つまでに、それだけの時間がかかりました。
ちなみにこの一時帰国、コロナ禍のビザ延長がからんで「3日以内に出国してください」と言い渡されるというひと騒動つきでした。書き出すと長くなるので、この話はいずれ別の記事にまとめます。
健保の加入手続き:どこで、何を出すの?
「加入できる条件はわかったけれど、実際どこに行けばいいの?」というところを整理します。手続きの窓口は、立場によって違います。
① 会社に雇用されている方(駐在員・現地採用)
自分で役所に行く必要はありません。 勤務先が「投保單位(保険の加入手続きを行う単位)」となり、会社の担当部署が手続きをしてくれるのが一般的です。
こちらでやることは、求められた書類を会社に提出することだけ。就労開始のタイミングで、会社側から案内があるはずです。もし赴任してしばらく経っても話が出てこない場合は、こちらから確認してみてください。
② 会社勤めのご家族に帯同している方
働いているご家族(=被保険者)の勤務先を通じて、「眷屬(扶養家族)」として加入するルートです。窓口はご自身ではなく、配偶者の勤務先になります。
前の章で触れたとおり、居留証の居留事由が「外国専門人材」の方、または就業ゴールドカードをお持ちの方のご家族は、居留証を受け取った日から加入できます。 それ以外は6か月待ちです。
まずは居留証の「居留事由」欄をご確認ください。
なお、台湾で生まれた外国籍の赤ちゃんについては、6か月を待たずに出生日から加入できる扱いになっています。
③ 雇用されていない方(留学生・自分で加入する方)
留学生の場合、多くは在籍する学校が窓口になり、学校が手続きを取りまとめてくれます。加入できるのは、居留証を取得して台湾に6か月居留してから。それまでの期間は学校指定の民間保険などでカバーするのが一般的なので、入学の案内をよく確認しておいてください。
働いておらず、扶養家族としても加入できない方(制度上「地区人口」と呼ばれる区分)は、居住地を管轄する区公所が窓口になります。
④「6か月居留した」ことを証明したいとき
6か月の居留を証明する書類を求められた場合は、移民署(イミグレーション)で「外国人居留証明書」を申請できます。 自分で入国・出国の記録を数える必要はなく、公的な証明として1枚で足りるので、窓口へ行く前に取得しておくとスムーズです。
手続きに必要なもの(共通)
窓口や立場によって多少変わりますが、おおむね次のものが必要になります。
- 居留証(ARC)
- パスポート
- 証明写真(健保カードに使用)
- 申請書(窓口または勤務先で受け取ります)
- 外国人居留証明書(6か月の居留を証明する必要がある場合)
保険料はどうやって決まる?
保険料は立場によって計算のしかたが違います。
- 雇用されている方:お給料の額に応じた「投保金額」の等級で決まり、本人・勤務先・政府がそれぞれ分担して負担します。多くの場合、毎月のお給料から天引きされます
- 雇用されていない方:定額の保険料をご自身で納めます
いずれも金額は改定されることがあるため、具体的な数字は公式情報でご確認ください。
健保カードが届くまで
申請が受理されると、健保カードは後日郵送で届きます(カードの発行には実費がかかります)。届くまでの間に受診が必要になった場合の扱いは窓口で確認しておくと安心です。
加入条件・待機期間・必要書類・保険料の扱いは、制度改定や個々の在留資格によって変わります。手続きの前に、必ず勤務先の担当部署または健保署の公式サイト・窓口で最新の情報をご確認ください。
台湾で生まれた子どもの健保手続き
夫の道のりと比べると、息子の健保はとてもスムーズでした。台湾で生まれた場合、戸籍の届け出と同じタイミングで健保の手続きもできるからです。
流れ
出産 → 区役所(区公所)で戸籍に入れる → その場で健保の手続きもあわせて行う
持ち物
- 病院が発行した出生証明書の原本
- 戸口名簿(戸籍簿)
- 父または母の身分証と印鑑(署名で対応できる場合もあります)
- 赤ちゃんの証明写真データ(健保カードに写真を入れる場合)
なお、手続きに赤ちゃん本人を連れて行く必要はありません。
産後の体で新生児を連れての外出は負担が大きいので、これは覚えておくと安心だと思います。
当日の様子と、かかった時間
窓口はそれほど待たずに済みました。日台ハーフの子どもの届け出でしたが、担当の方は慣れている様子で、「次はあちらの窓口へ」と親切に案内してくださいました。
ただ、やりとりは基本的に中国語です。 不安な方は、中国語のできるご家族やお友だちに付き添ってもらうと安心だと思います。
基本情報を記入していき、その日のうちに戸籍の届け出と健保の手続きが完了。 あわせて出産に関する給付(生育補助)の申請もその場で済ませることができました。健保カードは、1週間ほどで手元に届きました。

(※必要書類・同時に申請できる給付の内容は、自治体や状況によって異なる場合があります。お出かけ前に、管轄の区公所の公式案内でご確認ください。)
なお、日本人の配偶者との間に生まれたお子さんの場合、台湾側の手続きとは別に日本側への出生届も必要になります。こちらは期限が決まっているので、産前に流れを確認しておくと慌てずにすみます。
健保カードが手元に届いてから
健保カードを持つと、病院の受付での流れがぐっとシンプルになります。実際の受診の手順については、こちらの記事にまとめています。
▶ 関連記事:【保存版】台湾での病院のかかり方
まとめ:この3つだけ覚えて帰ってください
- 健保に入るには、まず居留証(ARC)が必要。居留証が出ない在留資格の期間は、医療費が全額自己負担になる
- 加入のタイミングは立場によって変わる。雇用されている方は雇用された日から。ご家族は、居留事由が「外国専門人材」または就業ゴールドカードなら居留証を受け取った日から、それ以外は6か月待ち
- 台湾で生まれた子どもは、戸籍の届け出と同時に手続きできる。本人の同行は不要
健保が「ある」と「ない」の差は、金額以上に、日々の安心感の差だと思います。これから加入を控えている方の、道しるべになればうれしいです。
この記事で参照した公式情報
- 衛生福利部中央健康保険署「非本國籍人士」(外国人の加入資格・加入開始日/中国語)
- 健保署「外籍人士參加全民健保規定說明」(加入区分の一覧表)
※この記事は執筆時点の情報と、わが家の体験にもとづいて書いています。制度・条件・費用は変更されることがありますので、実際に手続きされる際は、必ず公式サイトや窓口で最新の情報をご確認ください。

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